物理現象としてのドミナントモーション
ジャズに限らず、音楽の中で頻繁に登場するプロセスに、いわゆるドミナントモーションというのがある。
例えばキーがCであれば、G7(ソシレファ)→C(ドミソ)というコード進行。ここで、G7の中のシとファの関係が、三全音、トライトーン(シの1音上がド#、2音上がレ#、3音上がファ)の関係になっていて、このシとファの響きが不安定なので、そこから、より安定な響きを持つドとミに向かいたがる特性(シ→ド、ファ→ミ)があって、これをドミナントモーションと言う。
昨日触れた本
VOICE OF BLUE 舞台上で繰り広げられた真実のジャズ史をたどる旅
の中の一節で、「ドミナントモーションは、物理的な『現象』です」(P.95)という記述があって、凄くハッとさせられた。
物理では、エネルギーが高いところから低いところに落ち着く。摩擦が無ければ全エネルギーの和は変わらないが、摩擦がある現実的な状況では、全ての物理現象は、エネルギーが高いところ(不安定なところ)から低いところ(安定なところ)に落ち着こうとする性質がある。
なるほど・・・ドミナントモーションもこれと同じだったのか・・・
ちなみに、ファとシの音の振動数の関係は、平均律だと、1:√2の関係。純正律でも、1:45/32 という中途半端な数字。この45、32という数字は、オクターブの中の12個の音の振動数の純正律の比率の中で一番大きな数字になっている。
これに対して、ここからドミナントモーションで解決する先のドとミの関係は、平均律だと1:2の3乗根で、これは5/4に近い数字(純正律では5/4)。
ドミナントモーションは、G7→Cみたいな、V7→Iという解決を基本としつつも、それだけだとつまらないので、経過的なコードをうまくつかってこれを色々発展させることで、解決しかけたようで解決していないような浮遊感が生み出される。物理のエネルギーの言葉で言うと、いきなり最安定状態に安定するのではなくて、色んな準安定状態を用意して、そこに落ち着きそうでいて落ち着かない、そんな感じに対応しているのかな・・・